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をしていたらプロではこのぐらいの成績しか残せないぞ、という危惧があったので、プロの選手としてどう生活すべきかを考えざるをえないところに追い込まれたわけです。これが最初のハードルだったと思います。そこで私はいろいろと考えました。まず1番目は身体を作ることです。プロスポーツの選手が自分の身体をちゃんと作るための食事というものを真剣に考えるようになりました。次に、運動神経の効果的な発揮法を考えました。神経系統の集中力や瞬発力を要求される職場ですから、そのためには睡眠時間をきちんと確保しなければいけないという結論を自分の中で出しました。3番目に考えたのは、生活にめりはりをつけるということです。人間は24時間緊張して生きられるわけではない。かといって、なんとなく疲れたから休むということではいけない。自分で目標を設定し、やるだけやってそこで休む、つまりは、休むという目的意識も必要だと考えました。そして4番目に、自分にとって一番大切なものを常に意識するように心掛けました。
−中略−
プロ野球は現在840人の選手がいるのですが、毎年ドラフト会議で7〜80人が入ってきます。逆に考えれば、毎年80人が出て行かなければいけない世界でもあるわけです。その中に残るためにはとにかく結果を残さなければならない。結果を残すためには何が必要であるかと考えますと、やはりセールスポイントがあるかどうかということです。足が速い人、守備が上手い人、よく打つ人、野球ではこの3拍子があればベストですし、1軍のレギュラー選出として確固たる位置を占めることができます。また、この3つのうち1つでもずば抜けたものがあれば、ピンチヒッター・守備固め・ピンチランナーなどで1軍に残ることができます、そして、残っていれば結果を残すチャンスが生まれ、その結果が次の年を約束してくれるわけです。翻って自分を見れば、2年間さしたる成績を残すことができず、ついに3年目はキャンプから2軍へ行かなければならない事態になりました。その時に私は、自分の中で球団にアピールできるものは何だろうと考えましたが、このときは実を申しますと何もなかったのです。自分は3年目に何をしなければならないのか。このままじゃ危ないと警告してくれたスカウトの木庭さんのおかげで、危機感を持って野球に向かうことができるようになりました。
この年に出会った大切な人がもう一人います。現在ダイエーの専務をなさっています根本さんです。根本さんが合宿にいらっしゃって、「今年はおまえを使わない。1年間時間をやるから衣笠という選手を作ってこい」と、はっきり言われました。私のセールスポイントをどこに置こうかということを徐々に考えていた時だったので、この一言は大変に効きました。
−中略−
4年目からレギュラーとしてゲームに出してもらうようになりましたが、この年に学んだことは、結果を残すためには時として自分の理想を抑えなければならない場合があるということでした。私はプロ野球の選手は技術屋だと思っています。一つの技術を作って、それをグランドで表現する練習ていくら表現してもだめです。試合の中で、自分は打ちたいという欲求があり、相手の投手は絶対抑えたいという欲求がある。それがぶつかり合ったときに出せるのが技術です。そのために私は、毎晩毎晩大きな鏡の前で素振りを繰り返しました。自分の頭の中にある理想のフォームを追いかけるという作業を繰り返す毎日を送りました。当然、毎晩のように行っていれば、次の日の試合でそれを出したいと思うわけです。しかし、ゲームに出してもらった以上、そこでは結果を残さなければいけない。自分が生き残るためにはどうしても1本のヒットが必要です。グランドでメンバー発表が行われた時、苦手のピッチャーに当たることが当然あります。例えば、ここまで15打数で1安打しか打っていない相手と対戦すると、4回ってくる打席で1本のヒットを出すことはなかなか厳しい状況であることは確かです。そこで何を考えるのかというと、バントヒットもあるのではないかと、ふと考えます。私の脚力で、どの位置にバントをしたらどのくらいの確率でセーフになるか、これが3割くらいあるかなと判断したら、私はためらいなく第1打席目からバントします。やはり一番大事なことは結果を残すことです。ヒットがあれば翌日も使ってもらえる。翌日の試合には私の好

 

 

 

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